エラスティックリーダーシップを読んで考えたこと
この記事はScrumFestSapporo2020 Advent Calendar 2020の20日目の記事です。
はじめに
安ヶ平です。普段はSIerでスクラムマスターとして働いています。
今年は各地のScrumFestにオンラインで参加していて、11月はScrumFestSapporo2020に参加しました。招待講演がすごく良かったので、そこで言及されていたエラスティックリーダーシップをアドベントカレンダー駆動で読んで、考えたことをブログにしたためてみました。
記事の前半では、エラスティックリーダーシップという考え方について、私なりの理解を述べます。次に、書籍を読んでスクラムマスター視点で大事だと考えたことを2つ述べます。最後に、この本の内容とSCRUMMASTER THE BOOKの内容はいい感じの補完関係にある気がしたので、その点について述べます。
エラスティックリーダーシップという考え方
エラスティックリーダーシップというのは、「チームにはサバイバルフェーズ、学習フェーズ、自己組織化フェーズという3つのフェーズがあり、リーダーはチームのフェーズに合わせたリーダーシップスタイルを取る必要があるという考え方」と私は理解しています。書籍を読むことで、この考え方の他にも様々な気づきを得ることができましたが、タイトルになっているこの考え方を知れたこと、これが自分にとってのこの本の一番の価値でした。
各フェーズとそれに合わせたリーダーシップスタイルは以下の通りだと理解しています。
サバイバルフェーズ
サバイバルフェーズというのは、メンバが目の前の仕事をこなすことに精一杯で、チームとしての学習時間が取れていない状態を指します。
このフェーズにおいて推奨されるリーダーシップスタイルは、指揮統制型のリーダーです。
アジャイルの文脈で出てくる支援型のリーダーシップは、このフェーズにおいては推奨されません。燃えさかる炎上案件においてチームが必要とするのは、出口を探索するよう背中をそっと後押しするような支援型のリーダーシップではなく、最短距離で一刻も早く、出口まで引っ張っていってくれるようなリーダーシップだからです。
このフェーズだと透明性を上げて検査と適応で改善だ!なんて言ってられません。なぜでしょう?それはこの言葉に尽きると思います。
ゆとりのないところに改善はない。
引用:カンバン仕事術
サバイバルフェーズにいるチームに対してリーダーができるアクションは、とにかくチームをそのフェーズから引っ張り出して、チームが学習時間を設けられるよう、ゆとりある状態にすることです。これが実現できると、チームは次の学習フェーズへ向かいます。
学習フェーズ
学習フェーズは、アジャイルの知識がある人にとってはイメージしやすいと思います。自己組織化したチームを目指して、チームがチャレンジするフェーズです。このフェーズのチームに対して推奨されるリーダーシップスタイルは支援型のリーダーシップです。チームは学習フェーズを経て、自己組織化フェーズへと向かいます。
自己組織化フェーズ
いわゆる自己組織化したチームで、このフェーズにおける推奨のリーダーシップスタイルは、自己組織化した状態が維持されるようファシリテートするリーダーシップです。
スクラムマスター視点で大事だと考えた2つのこと
チームのフェーズをよく観察する
正直にいうと、この本を読み始めた時点では、チームの3つのフェーズのことを以下の通り単純化して捉えていて、サバイバルフェーズはアジャイル開発している自分には関係のないことのように感じていました。
でも書籍を読み進めるうちに、チームのフェーズというのはちょっとした要因で変わってしまうものだということが理解できてきました。例えば学習フェーズにいたチームが、ちょっとバックログ消化がうまくいかない時期が続いたことでサバイバルフェーズに戻ってしまったり、自己組織化フェーズにいたチームが、メンバの入れ替わりで学習フェーズに戻ってしまったり。なのでスクラムマスターとしては、常にチームがどのフェーズにいるのかを観察して、その状況に合わせたリーダーシップスタイルを発揮することが大事なのだと思いました。
守るだけではなく、創る
スクラムガイドには、スクラムマスターの仕事として以下の印象的な仕事が掲載されています。
開発チームの進捗を妨げるものを排除する。
引用:スクラムガイド2017
最近以下の通りになりました。
スクラムチームの進捗を妨げる障害物を排除するように働きかける。
引用:スクラムガイド2020
私はこのあたりの記述から、スクラムマスターはチームを守る存在というイメージを持っていました。スクラムマスターが守るものの1つに「予想外の事態に対処するためのゆとり時間(≒バッファ)」があると考えていて、それを守ることは実践してきたつもりです。ただ、そこからさらに一歩踏み込んで「チームが学習・改善するためのゆとり時間を創る」という意識が薄かったことに、この本を読んで気づきました。
これまで私は「学習はプライベートでやるもの」と考えていたのですが、チームとしてハイパフォーマンスを出すためには、今のチームでうまく働くための学習や実験が不可欠で、それはプライベートでは実践できないことなのだから、スクラムマスターが学習・実験のための時間を創るよう、チームや組織に働きかける必要があると考えるようになりました。
SCRUMMASTER THE BOOKとの補完関係
書籍エラスティックリーダーシップの一番の価値が「エラスティックリーダーシップという考え方」であるのと同様、SCRUMMASTER THE BOOKの一番の価値は「#ScrumMasterWayという考え方」だと思っています。私は#ScrumMasterWayを以下の図のようなイメージで捉えています。*1
私はSCRUMMASTER THE BOOKを読むまで、#ScrumMasterWayのLevel3がスクラムマスターのスコープという意識がありませんでした。ですが#ScrumMasterWayを読んでからは、チームの先にいる組織・会社を意識するようになってきたと思います。こういった気づきを与えてくれたという点で、この本に出会えて良かったです。ただ一方で、自分がこの本に期待していたのは「自己組織化したチームを作るためにスクラムマスターは何をすべきかのヒント」だったので、その点については肩すかしを食らったような印象を受けました。
そんな時に出会ったのが書籍エラスティックリーダーシップだったので、自分がSCRUMMASTER THE BOOKに期待していたことはこっちに書いてあったんだ!と思いました。*2
チームを自己組織化に導くエラスティックリーダーシップと、そこでの経験を組織や会社、社会に広めていくという#ScrumMasterWayを学んだことで、私はスクラムマスターとして常に意識すべきことを以下のイメージで捉えるようになりました。*3
私はこのイメージを、T型人材になぞらえてT型スクラムマスターと心の中で呼んでいます。
T型スクラムマスターを意識して仕事をするようになったのはまだ最近のことなので、実践していくうちにイメージは変わってゆくかもしれませんが、今のところT型スクラムマスターを意識した動き方は自分にしっくりきていて、チームや組織の状態を以前よりもうまく観察できるようになった気がします。
おわりに
この記事では、エラスティックリーダーシップという考え方、書籍を読んでスクラムマスター視点で大事だと考えた2つのこと、SCRUMMASTER THE BOOKとの関係、そしてそこから導いたT型スクラムマスターという考え方について述べました。T型スクラムマスターという考え方はこれからも実践するとともに、他の方とも対話していきたいと考えています。